1 勾留とは
勾留とは逃亡又は証拠隠滅を防止し刑事裁判を適切に進行させるため,比較的長期間身柄を拘束する手続きのことです。起訴の前後で,起訴前勾留と起訴後勾留とに区別され,それぞれ勾留の期間や保釈の有無などに相違点があります。
勾留は一時的にとはいえ国民の自由を奪う手続きになりますので,一定の要件がないと許されません。勾留の要件とは,①勾留の理由及び②勾留の必要性があることです。勾留を認めるかどうかの決定は裁判官が行います。
2 勾留の理由
刑事訴訟法60条1項は,「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合」で,「1 住居不定 2 犯罪の証拠を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある 3 逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由がある 」の3つのうちどれか一つにでも該当する場合に勾留することが出来るとしています。
「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合」については,捜査機関が何かしらの証拠をもって疑っていることから,容易に認められる印象です。当然ですが,明らかに犯行を行うことが無理であることが客観的に判明している場合には,この要件を満たさず勾留は認められません。
住居不定とは,定まった住居を有していない場合はもちろん,住居を本人が明らかにせず他の資料からも住居が分からない場合もこれに該当することになります。住居不定の人は,裁判所に呼び出すのにも苦労をし,裁判を滞りなく進行させることが困難になるので,この要件に該当する場合には勾留をして身柄を確保することが認められます。
犯罪の証拠を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときには,証拠を隠滅されると判決を誤ったり,判決に至るまでに混乱が生じる可能性があるので,身柄を確保することが認められています。具体的には,①対象となる証拠を想定したうえで,②その予想される証拠にどのような関与が考えられるかを検討したうえで,③実際に証拠隠滅を行う可能性と実効性があるか,そして④そもそもそのような行為を被疑者(被告人)が行う意思があるかを検討して判断することになります。例えば,窃盗犯の犯行の様子が人相も含めくっきりと防犯カメラ映像に収められており,その映像が既に警察において保管されている場合には,③証拠隠滅は困難であり可能性は低いとなります。また,その状況で観念した被疑者が全て自白して認めていれば,④罪証隠滅する意思を持っている可能性は低くなります。また,被疑者に想定される処分が軽い場合には,④罪証隠滅する意欲が高くならないので,罪証隠滅の意思はないという方向に判断されやすいです。
逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとは,裁判所にとって被疑者(被告人)の所在が不明になることで,刑事裁判を進行させていくことが出来なくなるので,勾留の要件に含められています。裁判所や捜査機関への不出頭が直ちに逃亡の疑いとなるわけではないとされていますが,現実的には逃亡の疑いありとされてしまう可能性が高いでしょう。生活状態が不安定だったり,無職や一人暮らしの場合には認められる傾向がある一方で,自己所有の家に住んでおり家族や長年勤務した仕事がある場合には,逃亡の疑いなしとなる可能性が高いです。また,疑われている犯罪が重く実刑判決が考えられるほど,逃亡の疑いが強まり,実刑判決が考えにくい場合には逃亡の疑いは弱まります。
3 勾留の必要性
勾留の必要性とは,勾留の理由はあるけれども,勾留のもたらす不利益を考慮すると勾留をすることが不相当である場合には,勾留の必要性に欠けることになり,勾留することが認められなくなります。この必要性に欠ける場合として多いのは,痴漢や飲酒運転のうち犯行の態様が重くなく,罰金刑が想定されるような場合に,被疑者(被告人)が勾留によって職を失う可能性が高いなど勾留による不利益が大きい場合に,勾留の必要性が欠けることになり,勾留が認められないということになります。
4 逮捕前置主義
起訴前勾留については,上に書いた条件に加えて逮捕を前置することが要求されることになります。
つまり,先に逮捕を経由していなければ起訴前勾留は認められないということになります。
逮捕は,警察による逮捕の場合には72時間以内に勾留請求されるかどうか決まり,原則10日間の起訴前勾留と比べて短い期間の身柄拘束手続きになっています。
法律の建前として,いきなり長い期間である身柄拘束の勾留をさせるのではなく,一度逮捕を経て身柄拘束の可否に対する判断を慎重に行っていこうということになっています。